地域社会と外国人の共存
宇都宮大学国際学部 藤井 満春
私の出身地である群馬県には、大泉町という外国人がとても多く住んでいるということで有名な町がある。外国人の入国に関して厳しい規定を定めている日本においては、外国人の不法滞在者や在日外国人についての問題が後を絶たない。このような中で、大泉町では地方自治体が中心となって積極的に外国人の受け入れを行い、町の発展に大きな影響を与えている。これは、今後の国際化が進む日本において、地域社会における外国人との共存の良い一例となり得るのでないだろうか。しかしその一方では、幾つかの問題が起こっているはずである。では、その問題点とは何なのであろうか。またそれに対する行政などの対応はどのようなものであるのか。
群馬県の東部に位置する大泉町の現在の総人口は43,008人(平成13年10月末現在)である。その内外国人登録者の数は6,340人(平成13年3月末現在)である。つまり、外国人の町民人口に占める割合が14%以上であるという事である。この町の産業構造については、1次産業が1.2%、2次産業が63.5%、そして3次産業が35.3%であり、2次産業が半数以上を占めていることがわかる。というのも、この町は隣接する太田市と共に戦時中から軍事産業において発展し、戦後においては昭和35年に「首都圏都市開発区域」に指定され、工場誘致などを積極的に行ってきたからである。また、南米等からの外国人の増加によるその豊かな労働力も、大泉町の産業の発展に大きな役割を担っている。ここで、大泉町における外国人の増加の経緯について説明すると、きっかけは平成2年に施行された改正入管法である。この改正によって、日系2世、3世などの就労が可能となり、日本へ出稼ぎに来る外国人が急激に増加したのである。また、これに応じて大泉町では、産業発展のための豊かな労働力として積極的に外国人の受け入れを行ったのである。大泉町における総人口と外国人の数の推移については、昭和62年に総人口が37,130人であるの対して外国人の数が222人、平成2年には38,446人に対して623人、平成13年には43,008人に対して6,340人(平成13年10月末現在)というように変化している。次に、産業や工業についてであるが、大泉町は「首都圏都市開発区域」に指定された後、めざましい発展と遂げてきている。電機機器・輸送機器を主体とした食品加工・印刷・プラスチック製造などの分野を中心としながらめざましい発展と遂げてきている。ここで製造品出荷額を例にとって産業の変化を見てみると、昭和35年度には64億2千万円だったのが昭和50年には1,322億円にまでなり、平成12年には8,485億1千万円にまで達している。また、商業については、以前は隣接市への流出が目立っていた購買力が、外国人の増加に伴い、町内に数々の専門店ができ、町外からショッピングに訪れる人も増え、商業活動に活力をもたらしている。財政の面で見ても、平成13年度一般会計当初予算が11,890百万円であり、その内自主財源が9,575百万円と80.5%を占めており、依存財源が2,315百万円である。ここで注目すべき事は、平成12年度の財政力指数が1.044を示しており、24年連続で不交付団体であるということである。以上のような事から、90年代特に増加した外国人による大泉町の産業や経済に対する効果が見て取れるであろう。
次は、大泉町における外国人の生活についてである。いくら日系人といえども、移住当初は文化や生活観の違いに戸惑いを感じなかったはずは無いであろう。もちろん外国人の数が増えるにしたがって、外国人独自のコミュニティーができ、独自の生活習慣を守る事は出来るであろう。しかし、かといって地域住民と全く関わらずに生活を送る事は不可能に近いであろう。また、そのような事で問題が発生する可能性も否定できないであろう。では、そのような事に対して、町ではどのような対応を行っているであろうか。そこでまずあげられるのが、言語面でのサポートである。例えば、役場などにポルトガル語を話せる相談員を置いたり、各小中学校に日本語学級を開設するなどの対応がなされている。しかし、アンケート(日本語教育新聞、平成13年9月1日)に目を向けてみると、日本語を話せない人の割合が全体では約36%、10代、20代に限っては49%と、未だに言語面でのサポートが十分ではない事を物語っている。しかし文化的な面では、相互理解につながる事が行われている。それは、伝統的な町内行事の一つである“大泉まつり”のなかで、サンバカーニバルを行うということである。これは1991年から始まり、多くの人手で賑わしている。またこのサンバカーニバルは、全国的にも有名となり、日本全国から日系ブラジル人を中心として多くの人たちが集まって来ている。
ここで、大泉町以外で日系人等が多く住んでいる市町村についての例をあげておく。
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静岡県浜松市の場合
日系ブラジル人の就業にとって日本語の習得は、必要不可欠である。つまり、彼らが仕事を得られるか得られないかは、日本語が出来るか出来ないかで大きな差が出るのである。また、職についていても、日本語が出来ないと、リストラの対象になり易いということである。
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愛知県豊田市の場合
トヨタ自動車など大企業の工場が多く存在する事によって、比較的就業しやすい環境が整っているため、外国人人口が急増し、それに伴ってごみ処理や騒音問題など新たな問題が起こっている。その多くは習慣の違いから起こるものである。これに対して行政側では、多文化推進協議会を作り、そこでさまざまな問題の話し合いを行う場を設けている。
最後に、
ボーダレスと言われる現在の国際社会においては、ヒト・モノ・カネが国境を越えて頻繁に移動している。特に、EUなどではヒト・モノ・カネの移動が自由に行えるようになった。しかし日本について言えば、モノとカネは国境を越えて自由に移動させる事が出来るが、ヒトについては未だに厳しい規制の元に置かれている。日本は昔から島国と言う事もあって、外からの進入者を拒んできた嫌いがある。しかし国際化が進む現在では、そうも言っていられず、また、日常生活において外国人に触れる機会も多くなってきた。現在の日本の社会問題の一つに失業率の増加があり、それは外国人労働者の入国を拒む理由ともなるが、日本の失業率問題と外国人労働者の問題は少し焦点のずれた話のように思う。と言うのも、外国人労働者が就く職種と言うのは、日本人からは敬遠されがちないわゆる“3K労働”を中心とした単純労働分野であり、その分野については失業率問題にあまり影響を及ぼしていないと考えられるからである。
現在も増えつづけている外国人は、今後も引き続き増える事であろう。しかしその一方で、アンケート(日本語教育新聞、平成13年9月1日)によると、現在日本(群馬県大泉町)で生活している日系ブラジル人のうち、半数近くが「今後日本で永住はしたくない」と回答したという結果がある。これは、あくまでも就労が目的であり、日本または日本人に対してあまり魅力を感じていないということが理由に挙げられるであろう。また、現地の地域住民が彼らに対して、不適切な対応をしたり、人権を侵害するような言動があったという声もあがっている。
これまで、地方自治体等によって、地域社会に外国人を受け入れる制度的な面では整備が進められてきたかもしれないが、実際には未だに外国人にとって住みよい街づくりが達成されたとは言えないようである。今後の地方自治体については、より一層地域住民と外国人とが相互に理解し会えるような機会を提供していくと共に精神面での外国人に対するケアが必要となってくるであろう。そして、これらを踏まえて、外国人が永住したいと思えるような町づくりに励んでもらいたいと思う。
〈参照サイト〉
http://www.town.oizumi.gunma.jp/index.html
大泉町公式ホームページ。町の情報がわかり易く紹介されている。地域のイベントや案内等最新の情報をいち早く得る事が出来る。
また、町の広報も閲覧する事が出来る。